XR脚本術から見る「幻の湖」と「豊饒の海」

2020年2月5日脚本レビュー三島由紀夫, 幻の湖, 橋本忍, 豊饒の海

この記事の内容は・・・日本映画史に残る迷作 黒歴史 トンデモ系と言われる「幻の湖」をXR視点で読み解くと・・・
・三島由紀夫の最高傑作であり遺作「豊饒の海」との関連性とは

古今東西あらゆる脚本についても触れていこうと思っている
脚本千本ノックですが、記念すべき1回目にやはり
触れたなくてはならないのは「幻の湖」だと思いました。

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沙奈絵ちゃん

何故作られてしまったのかが未だに封印されてる
謎の多い作品なんですよね
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人間失格

ただはじめに言っておくと脚本としては素晴らしいけど
映画としては失敗作何だニャン・・・・何故橋本忍氏は自分で監督までやってしまったのかニャー・・・
誰か教えて欲しい!!

映画「幻の湖」とは



WIKIもNAVERも平成までの「幻の湖」を取り上げる時の
“アングル"で止まってるけど
この作品をちゃんと令和視点で再定義すると
完全に「ツインピークス」!
しかも2017年版の「THE RETURN」とほぼ同じ作品構造になっています。
さらにテーマは映画史において数々の傑作脚本を生んできた
「Psychotic Women」モノでもあります

参考書上にあげた評論集House of Psychotic Womenは未翻訳ですが傑作ですので是非

天才脚本家 橋本忍


黒澤明監督と共同執筆した1950年代から60年代の作品
傑作ハラキリ映画としての「切腹」
そして1970年代の日本映画における方向性を
決定づけてしまったと言ってもいい
自らの
「橋本プロダクション」下で製作された諸作品まで
一貫して強度なエンターテイメントとしての脚本を書き続けられた天才脚本家。
ご自身の脚本術を振り返った
「私と黒澤明 複眼の映像」で開陳される
(と言ってもやっぱりセリフの書き方までは載ってません!)
氏の脚本執筆法は
XR的脚本術からすれば打倒すべき最たるものですが
黒澤監督と共に所謂旅館に「カンヅメ」になっての
脚本執筆の悪戦苦闘ぶりは読み物として凄く面白いです

そしてこの「幻の湖」をXR脚本術的に
新しい時代の脚本の一本として取り上げる時
この作品とのDEEPな関係性に触れなくてはならないと思います。
それが三島由紀夫が割腹自殺するその朝に完成させた遺作
「豊饒の海」です

早すぎたXR小説「豊饒の海」とは


豊饒の海に関しては三島由紀夫研究家 井上隆史氏による
ほとんど探偵モノ、死体を解剖してプロファイルするかのような
面白すぎる研究本
「三島由紀夫 幻の遺作を読む~もう一つの『豊饒の海』」
が素晴らしいのでオススメです

この作品は三島が後年「ライフワーク」と位置付け
完成まで足掛け五年、「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」と四巻構成・・・・
その長さに恐れおののいて読み切った方もあまりいないかも知れません
しかしそれは惜しい!!!
何故なら「豊饒の海」とは日本文学史上最も優れた
幻想文学であり見事なXR小説(脚本)であるからです。

僕等が目指すXR的視点・ストリーム・セリフ・人称
それがこの作品には全て入っています。
そして執筆されて50年以上経った今でも
というか昭和・平成ERA以上に「豊饒の海」のXR性は
令和ERAにますます輝きを増しつつあると僕は思います。
その特異なXR性を支えている根本的な要素
それがこの作品で繰り返される
「生まれ変わり」です

「幻の湖」「豊饒の海」に共通する「生まれ変わり」という境界線突破法

自決する一週間前、生前最後となったインタビューでも
三島由紀夫は明確にこう断言しています

曰く、「生まれ変わり」という"視点"を使えば
時間から自由になれる。
世界を新しく解釈するにはそれしか方法がないはずだ。
ここで三島が使っている「クロニックな時間」というターム
をXR脚本術流に言い直せばそれは「物語=ストーリー」です
また三島が言う「全体が大きな円環をなすもの」
とは「ストリーム」の事だと思います。
生まれ変わりとは永遠に終わらない生であり
と同時に永遠に始まらない死でもある。

そしてその地点に立つ(視点を得る)事でしか
コトバ(セリフ)は生まれてこない。
三島由紀夫が自決する朝に立っていたのはそんな地点であり
彼が見ていたのは切腹によっても終わらないストリームに他なりません。
三島の遺書は公開されていませんが
書斎に残されたメモには
「限りある命ならば永遠に生きたい」と書かれていました。
そして「幻の湖」もまたテーマとなっているのは生まれ変わりです。
主人公の「道子」はソープランド嬢の「お市」なのか
それとも戦国時代に生きる「お市の方」なのか
次第にその境界が決壊していきます。
しかしその時彼女は初めて本当の「敵」を見る視点を得る事ができます。
そしてその意識は「無敵の人3.0」でも
テーマにした量子的エンタングルメントのように


また新しい生まれ変わりの旅へと向かいます。
橋本忍氏自身も後年「幻の湖」は失敗作と位置付けて
黒歴史として発言してらしたので残念ながら
氏がどのような視点・境地から「幻の湖」の脚本を書かれたかは
詳しく残されていません。
が、間違いなく氏の構想には
三島由紀夫が自身の切腹映画「憂国」を製作した時
橋本氏の「切腹」を念頭に置いていたように
「幻の湖」の脚本を書いた際には「豊饒の海」があったと思います。
この二つの作品は「生まれ変わり」と言うシャムの双子であり
共に幻想文学・幻想映画としての最高峰に立つ
XR的傑作なのです

まとめ


「エクスマシーナ」や「アナイアレーション」のアレックス・ガーランド
「ヘレディタリー」や「ミッドサマー」のアリ・アスター
そして僕にとって去年2019年のBEST MOVIEだった
「Jallikattu」もですが、今新しい時代の訪れを予感させる
ネオオカルト的な映画が世界中で多数生み出されています。

最近のヤバい映画は全部XRダーレン・アロノフスキー「mother!」ルカ・グァダニーノ「suspiria」も

恐れを喚起するだけのホラーとは異なる
新しい視点を持った決壊の予感に満ちたそれらの作品は
やはりXR的ストリームにその作品の核を委ねているように思います。
そうしたXRな幻想作品の先駆者として
是非「幻の湖」の脚本に触れてみてください。

今回もお読みいただきありがとうございました。

2020年2月5日三島由紀夫, 幻の湖, 橋本忍, 豊饒の海

Posted by nolongerhuman