Porter Robinson Get your Wish XRポップと脚本術

2020年2月19日XR脚本と音楽Get your Wish, porter robinson, イントゥ・ザ・ワイルド, ポーターロビンソン

この記事では・Porter Robinson6年ぶりの新曲「Get your Wish」が傑作の理由
・XRポップこそ正しいPOP MUSICである
について書いています。

XR脚本術においては「ストーリー」ではなく「ストリーム」が
脚本の時間軸を作るベーシック
となるわけですが
以前にも芥川龍之介と谷崎潤一郎の論争をあげて
書かせていただいたように
そんなストリームに一番近い表現は「音楽」で
しかもこれまた何度も言及していますが
時代における最新のPOP MUSICこそが
XR的脚本のストリームの源になると考えています。
そのためこの「脚本千本ノック」でもKPOPのみならず
優れた最新のPOP MUSICをご紹介していきたいと思います。

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沙奈絵ちゃん

そんなに手を広げて大丈夫ですか??
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人間失格

いや本業はMV監督やカメラマンなのに何故かやってるツイッターが
「音楽好きがFOLLOWすべきアカウント」に選ばれたり音楽ライターも
やらせていただいているので大好物なんだニャン


POP MUSIC史に残る傑作1st「WORLDS」でポーターロビンソンが見ていた世界

僕は2014年のBEST ALBUMに「WORLDS」を選出しました。
とにかく圧倒的に新しかったのは感情と音の接続法。
Porter Robinson自身はインタビューでこのアルバムを
「メランコリア」についての作品と定義していますが
メランコリーとは出口の無い悲しみの事。
では何故出口が無いかと言えばあらゆる感情が
全て過去へと向けられているから。
とにかく僕が驚いたのはこれまでPOP MUSICは
そんな終わりのない悲しみを何度も音にしてきました。

代表作タイトルまんまですけど「Mellon Collie and the Infinite Sadness」は
その代表作の一つだと思います。

でもそれは実際にメランコリアに取り憑かれた
そのアーティスト自身のココロのスケッチとしてのメランコリーの音でした。
しかし「WORLDS」が鳴らしたのはそんな悲しみを
まるで箱庭を作るかのように並べて、でもそんな憂鬱の庭
を作る本人がいるべき場所は世界の何処にもないという
限りなく透明に近い叫びでした。
先行リリースされた「SAD MACHINE」のMVに現れる
最後まで何も掴むことが出来ず差し伸ばされるだけの手
そして幾度と無くリフレインされる
「I WILL DEPEND ON YOU」というLYRICS

傑作POP ANTHEMとして世界中のCLUBでPLAYされた
「LIONHEARTED」のMVでも
世界を破壊し尽くすのはKAWAII日本のおんなのこ達で
Porter Robinson自身はVirtualな
ポリゴン製の紛い物の血を流して床に倒れ込んでしまう・・・・

悲しみという最も強いはずの感情のカタチさえ
今や僕等は失おうとしているのでは?という
正しくXR的な実存のためのポップ・ミュージックが「WORLDS」でした

何故彼は曲が書けなくなったのか?

しかしこの1stのリリース以降ポーターロビンソンは
突然曲を作ることができなくなります。
唯一発表されたのは少年時代にネットのDAWフォーラムで
知り合った友人Madeonとの共作「Shelter」のみ。
今回解禁になった新曲「Get your wish」もメロディー自体
は2018年に出来ていた事が本人のTwitterで明かされましたが
完成には至らなかった・・・・・


何故Porter Robinsonはそれまで
本人曰く、ほとんど呼吸をするのと同じくらい自然に
作れていた曲を作る事が出来なくなってしまったのか?
それはやはり彼が制作に一年!かけたという「Shelter」のMVの中に
答えはありました。
ジャパニメーションのヲタである事を誇らしげに宣言してきた
ポーターロビンソン自身の「脚本」による
非の打ち所のない「ザ・セカイ系アニメMV」
でもこの脚本千本ノックを読んでいただいている方なら
もうお分かりとは思いますが、僕はこの「Shelter」は失敗作だと思っています。

注意

これを書いた正に今日「パラサイト」がアカデミー四冠を受賞!!
「無敵の人3.0」で徹底批判した平成ERAのCOOL JAPANはいつまで続くんでしょうか??

やはり彼は「WORLDS」で直感した
自分の行き場のない悲しみに恐れを感じてしまった。
それはもうしょうがないです・・・だって1stを作った時
Porter Robinsonはまだ22才!!でした。
「Shelter」の主人公はまたもや日本のおんなのこですが
彼女の/ポーターロビンソンの絶望と恐怖は
つまり終わりのないはずの悲しみは見事なほど
「物語」によって回収されてしまいます。

こうやって書くと「ほーらやっぱり物語には偉大な力があるんだ
ストーリーは構造は必要なんだ!」と言う大合唱が
メッチャ聞こえてきますが、そんな声に彼もまた飲み込まれてしまった・・・
もう何度も何度も何度も書いてきてますが
僕らの感情も欲望も意志も、そして肉体さえも
全ては「既に」XR的にメタモルフォーゼをはじめています。

にも関わらずあいも変わらず「物語」だけが
頑なにそんな「進化」を認めようとしない。
僕らがその自由へと手を伸ばそうとするのを許さない。
「SAD MACHINE」で差し伸ばされた手はその自由を掴むための
ものだったにも関わらず、最後のところで「物語・ストーリー」に拉致されてしまった。
だからPorter Robinsonは曲を書けなくなってしまった。
つまり彼はXR的視点を見失ってしまったのです。

Get your Wish、そして荒野へ

しかし!しかし!!しかし!!!
ポーターロビンソンは踏み留まりました。
自身名義としては六年ぶりの新曲「Get your Wish」で
彼は再び自らの悲しみに
その悲しみによってしか辿り着けない未来に
XR的ストリームに自らの運命を委ねる決意
(まだAUTOTUNEはかかっているけど)高らかに宣言しました。
もうMVに2次元系おんなのこは登場しません。
CG的擬似バーチャルな世界も登場しません。
そこにあるのは僕らを飲み込もうとする美しく恐ろしい「波」と
その中でしかと目を見開いて歌い続けるPorter Robinsonの姿であり
そのメロディーはコトバはXR的ストリームへと流れ込む
自由の速度を手に入れた決壊感覚に満ち溢れているものです。

僕は初めて見る彼のそんな生々しい姿に
映画「イントゥ・ザ・ワイルド」の主人公、クリスを思い起こしました。

小説版の「荒野へ」でも「イントゥ-」でもクリスのラストは
彼が残したコトバ
Happiness is only real when shared
と共に今でも様々な解釈を巻き起こしています。
でもXR的視点からなら彼が辿り着こうとした「位置」は明白です。
それは全てがストリーム化する生と死の限界点。
僕は「Get your Wish」でポーターロビンソンが取り戻した
悲しみと未来、その地点もまたXR的極北だと思います。
だからこそこの新曲は2020年代の僕等の立ち位置を示す
重要なANTHEMだと思います。

まとめ


僕等脚本家が今という時代に正しいコトバを紡ぐには
優れたPOP MUSICが放つメロディーとサウンドが必須です。
僕等は書く事と同じように耳を欹てなくてはならない
僕等はその音が奏でる未来と絶望と恍惚を書かなくてはならない
Porter Robinsonの「Get your Wish」はXR的脚本のための
2020年最も優れたアンセムだと思います。

今回もお読みいただき誠にありがとうございます。